象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

手紙

今 負けないで 泣かないで 消えてしまいそうな時は

自分の声を 信じ歩けばいいの

大人の僕も 傷ついて 眠れない夜はあるけど

苦くて甘い今を生きている

(アンジェラ・アキ 手紙ーー投票券の販売機の前で口ずさむ歌)

 

O-TOYOさん、実は、それを僕は買ってしまったのです。あの時は公ちゃんやもっきり兄もいたのでなんとなく云いそびれてしまったのですが、それを、O-TOYOさんがいう売値で、買ってしまったのです。古物屋の、長年の勘で、お金が僕の手から離れた瞬間に、あっ、このシノギはあかんな、と思っていたのですが(19日のブログ参照)、O-TOYOさんの話を聞いてさらに完璧にあかん、いやな予感を完璧に補完、と云う次第です。迷路を、いつも間違った方に進んでしまう生き物がいると云う話を聞いた事がありますが、それが、僕です。まあ、あの厚生君が売れない、と云ったので、もしかしたら売れるかもしれない、と、大阪古書業界のジンクスを信じる気持ちがどこかにはあるのですが。あまり期待してはいけませんね。

 

僕は、あれから、もっきり兄に軍資金をもらって、シノギの負けを取り返しに尼の中央水槽に行ったんですよ。兄は、僕に、いつでも闘うチャンスをくれるのです。灰色の空から雨がしとしと降っていて、観客は疎ら。皆ここへ負けを取り返しにくる。負けを負けにくる……。静かな、指定席の硝子越しに舟が疾走してゆくのをいつまでもいつまでも眺めていたい。ぼそぼそとあてのない話をしながら、永遠に、細かく刻んだ何かを賭け続けていたい。そんな人間達の、不思議な、幸せな時間……。もちろん、僕は、勝負には勝ちませんでしたよ。そんな無粋な真似は、できません。永遠に、負け続けることの、美学。ちゃんと、しょんぼりと、人並みに揉まれて歩いて帰りました。というか、負けもしなかったんでね、余計に、しょんぼりと、兄の顔を見て、もらった軍資金分得して、さよなら。

古本屋の日記 2011年8月21日