象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

雨の日、乃木将軍の掛け軸と歩く。

雨、降っているのか止んでいるのかわからない。雨傘を畳む気がしない。薄暗い湿気を喜びながら厚い灰色の雲に覆われた安堂寺橋の坂道を乃木将軍の掛け軸を抱えながら歩いていると、目が痛くなるようなオレンジ色のカバンを自転車のカゴに積んだ厚生君がふいに後ろから現れて話しかけてくる。声が聞こえる。今日は、なかなか現実に復帰できない。声は聞こえるのだけれど、厚生君が、オレンジ色としか認識できない。小さな声で話すので、わたしも小さな声で話す。坂の下の赤信号に足踏みしながら、乃木将軍とオレンジ色が昨日の、夜中のフルカワの電話について話すのですが、これは、だれとだれが話しているのだろう、信号が青に変って、道を渡って、オレンジ色がじゃあといって左に曲がるので、わたしは、前進、前進、屍を乗り越えてと、小声でつぶやく。そういえば、オレンジは、傘を差していなかったな。
古本屋の日記 2012年2月25日