象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

楊柳観音之像

昨日の市場で買った古い掛軸の山の中に「楊柳観音之像」と書かれた古色を帯びた箱が混じっていた。古そうだし、よい仏画なら売るあてがある。さては慈悲深い観音菩薩様が貧しい古本屋を哀れに思い施しものを授けてくれたのかなと手に持ってみると、軽い。開けてみると中は空、やっぱり、これは失敗したかなと思い蓋の裏を見るとなにか書いてある。よく読んでみると高名な美術史家の源豊宗がこの観音図についてなにやら解説しているのだ。本当かな?源先生の書いた字を知らない象々半信半疑ではあるが、それでもあわてて、他の、裸の軸をくるくる広げてみる、ちがう、これもちがう、どこにも観音菩薩はいない。あかんやん。どれも違うし、売り物にすらなりそうにない。なんでこんな期待を持たせるような箱が混じってるんか、なにか、誰かに試されてるんか、見当もつかないが、箱書きを後生大事にする日本の文化の中で、裸のまま放り出された、おそらく無名の作家によって描かれた観音様の行く末を思うと、商売を抜きにしても残念でなりません。

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「此の水月観音図は元畫に仿って邦人作家の筆に成るもの○○渾厚なる表現は十四世紀初頭のかの良詮の名に於いて称はるる作風に属し背景の山水の手法は如拙周文の作風への展開を豫想せしむるものあるを見る 源豊宗 識」

○○は判読できない文字。

古本屋の日記 2011年4月28日