象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

アスプルンドの図書館にて(試し書き)

 

アスプルンドの巨大な円形の本棚のうちがわを延々と歩き続ける夢をみる。不思議と誰もいない、写真で見たよりもずっと薄暗い図書館の中で、読み尽くすことのできない膨大な量の書物の周辺を歩き続ける。この中の一冊、その中の一行に、きっとわたしの心をわたしの代わりに語ってくれる言葉があるに違いない。その言葉は、わたしに先んじて、(おそらく世界が始まると同時に……)すでに語られていたものに違いない。だからほんとうは、あれこれと、生きるための言葉に迷うことはない。わたしに必要なのは、ただその本を見つけること。その本を見つけて棚から抜き出し、ページを捲る、乾いた音を立てて、白いページを幾ページも幾ページも捲り続ける。その言葉を見つけて、そっと指でなぞってみる。

××××××

 

 

けれどもわたしはその本を見つけて、開いてみることができないだろう。世界にはあまりにも多くの書物がありすぎる。与えられた時間はあまりにも短すぎる。この円形の本棚に収まった本でさえ、読み尽くすことは出来ない。立ち止まって、高い書架の上の方を見上げながら、わたしにできるのはそのような一冊の本に出会うことを夢見ることだけだ。すでに語られ、未だ見いだすことの出来ない、それがすべてであるような、そんな言葉があると、想像するだけだ。

××××××××××

  

 

あるいは読書することはまったくの無意味なのではないかと不安になる。そのような書物に出会う前に、やがてすべてはわたしの言葉では捉えきれない消失点に吸い込まれて、消えゆく。

 ××××××××

 

 

 

古本屋の日記 2014年12月28日