象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

夕方に、本屋で。

夕方少し時間があいたので本町あたりの新刊書店へふらりと入り、なにか心に引っかかる本はないかとあれこれ見て回りましたが特になんにも、一冊もわたしの本はありませんでした。本棚をじつと睨み、ちょいと危ない人みたいに深刻な表情で(あるいは暗く笑っているともいえるかもしれない……)そんな何とも云えない顔でしばらく考え込んで、ようするに今、とくに何かを読みたいとは思わないのだなと納得いたしましたが、なんだかそれがとても残念でなかなか本屋を立ち去ることが出来ませんでした。

 

そのうち、いつか読んだコルタサルの短編のような入れ替わりが起こらないか……。じっと見つめているわたしがいつしか見つめられている一冊の本になって暗い顔したおっさんを見つめている。おっさんはわたしを見つめている。外はもう暗い。夜である。おっさんは本を取ろうと手を伸ばして、やめる。本棚に背を向けて、ゆっくりと遠ざかってゆく。わたしは離れてゆくわたしを見つめる。わたしが遠ざかってゆく。それが悲しくもあり、くすぐったいような快感でもあり、取り返しがつかなくなることを知りながらももう、追いかけようと云う気持ちは起こらない……。

古本屋の日記 2014年11月14日