象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

耳鼻科ー歌舞伎町

 

ようやく、耳鼻科。なんかバタバタしていてこれず、結局少しも症状が改善しない。満員。長い待ち時間。ぼんやりと、1994年の梅雨時期の、新宿歌舞伎町を思い出す。雑踏の、どっかの角の煙草屋の前にしゃがんで、そうだ今と同じようにぼんやりと、不思議に明るい空から落ちてくるお天気雨を見上げている、わたしがいる。ふみちゃんは、そこらのパチンコ屋でキューティーバニーを打っている。わたしがそこにしゃがんで何を考えているのか、この耳鼻科の待合室からはでは知ることが出来ない。昨日のことも明日のことも、そして肝心の今日の勝ち負けのことも、とくに深く考えているわけではなさそうに思える。何ものでもなく、ただお天気雨を不思議そうに眺める。そろそろ横浜に移動するかな……。あるいはそんなことくらいは頭に浮かんでいるかもしれない。雑踏の迷惑も考えず、まるで自分はそこにいないかのように。名前を呼ばれるのを待ちながら、わたしには新宿歌舞伎町のわたしがひどく羨ましく思える。ふと清潔な病院を見回して、ほんとうに彼は、こんなところにやって来たのだろうかと、歌舞伎町のお天気とおなじ、不思議な気持ちになる……。あるいはあの時、新宿で、わたしは誰かに刺されて死んだのかもしれないと思う。そうであってもおかしくない。誰かが、そうだタバコを買うのに邪魔だからとか、そんな些細な理由で、あるいは当時新宿のパチンコ屋にたむろしていた中国人が、朝の台の奪い合いの仕返しに……。

 

血を流して歌舞伎町の汚れた地面に顔をつけなから、わたしは少しも苦しくない。昨日もなければ、今日も、明日もないから。キラキラ光る雨。やっぱり、等価交換の権利モンなんかなかなか勝てんで。ふみちゃん。当たったら、役モンに玉入れてそれから右打や。ちがじゅうたんみたいにひろがってゆく。ふみちゃんはパチンコ台を見つめて、身動き一つしない。

 

古本屋の日記 2014年6月16日