象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

たよし。フォークナー。おばさん。

ずっと先延ばしにしてきた作業を二つ三つ片付ける。

 

夕方。千日前たよし。Aセットをやめて、生とフライドポテト、それからハイボール。時折曇ったガラス窓から外の景色を眺めながら、ウイリアム・フォークナーの「サンクチュアリ」を読む。`つぶし`から拾い上げた新潮文庫。読んでいないと思っていたら、どうも、途中までは読んでいるらしいことに十頁ほどで気づく。とくに海老を運ぶ話なんかは、何かの拍子に時折思い出す場面なのですが、「サンクチュアリ」の中のワンシーンだとは思っていませんでした。不思議な気持ちです。恐らくは二十年ぶりくらいでしょうか?今度は最後まで読み通すつもりですが、たよしではそれ以外の楽しみも多いので、しばらくすると本を伏せて頬杖なんぞをついてスキンヘッドのオッサンがカウンター入り口側角に座っているおばさんを観察し始めます。そんな場面、一枚の絵、にはなりませんかね。たよしでは五十代後半から六十歳くらいまでの一人客のおばんさんをよく見かけますが、そのおばさんはことのほかこの禿げのお気に召したようです。ーーおばはん、人生に絶望している訳ではなさそうですが、さりとてなにか日々の喜びやこの世界に対する大いなる希望を持っている訳でもない、まあ人生なんてつまんないもんだけどとりあえず死ぬのは痛そうだし生きてれば少しはいい事もあるかもしれないふらりと千日前まで出てきたけれどなんかどこいっても何を見ても別に楽しいわけでもない誰かと話したい訳でもないふらりと磁石で吸い付けられるみたいにこの店に入ったけれども安いだけで別に何がいいと云う訳でもないグビグビああでも生ビールはうまいわんねえあれれなんかあっちのカウンター角からわたしを見ているハゲがいるけどお呼びじゃないわよ涙ははっはっぁーーーー。

……。

略。。

 

帰り道。道具屋筋を抜けて丸虫花壇に山羊さんがいないかと思って覗いてみましたが、誰もいませんでした。

用意していた「兄貴おったんですかーーー」という言葉を小さくつぶやいて、しらんふりでそこを通りすぎました。

古本屋の日記 2014年4月15日