象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

呑み屋にて

何度墜落しても、まだそこは空の上だ。地上は、一体何所にあるんだろう?

 

「うらぶれた中年男のための一膳メシ屋」の狭い店内では、さかさま世界のテレビを見る。本物は頭の真上、そのトイ面に、ちょうど黒いテレビがすっぽりと収まる大きさの鏡。ぬるめのビールを飲みながら見るさかさま天気予報は、何所が何所だかわからない、さかさま、よく目をこらして、地図をぐるりと頭の中で回転させて、いるうち、さかさまに、終わってしまった。別に、明日の天気に興味はない。ほうれん草のおひたしと、出し巻き卵。箸の先でつつきながら、とりあえず、未来には何の予定もないことを、確認する。空漠と広がる、白い世界。ここは何所だろうかと考えながらビールをつぐ。もう、空だ。店のおばさんは表で近所の人と立ち話。おっちゃんは僕の顔を見ている、というより、僕の真上のテレビを見ている。ふふっと、笑う。おっちゃん、ビール、もいっぽん。ちらりと視線を落として、座ったまま手が届く冷蔵庫からビールを取り出して、栓を抜く。それからまた僕の頭上を見上げ、おっちゃんは、笑う。楽しそうに。僕も、鏡を、見てみる。

古本屋の日記 2011年7月2日