象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

繁栄を地下で支えるもの??

松山ケンイチ主演のドラマ「オリンピックの身代金」を観ていて思い出したのは、ネパールで出会った日本人のヘビー級ジャンキーの云う「日本の高度経済成長を支えたのはヒロポン(=シャブ)である」という、その手の人たちにありがちな、麻薬を必要悪としてうしろ暗くも肯定する独特の(裏)歴史認識でした。日本の今日の発展の礎を最底辺で支えていたのは飯場暮らしの土方や炭坑労働者たちであり、彼らがその厳しい労働環境に耐えることができたのはひとえにシャブのお陰である。とまあ少々大ざっぱな理屈ですが、そこから新幹線も、国立競技場も、広大な万博会場も、みんなシャブのお陰で出来たのさ、となります。そんな、一部のアンダーグラウンドな人たちがまことしやかに語る裏の現代史を時おり思い出しはしても、特にそれを学問的に検証するような書物に出会うこともなく、半信半疑に、どこまでが本当でどこまでが薬中のファンタジーなのかと思っていたのですが……。

 

ドラマの中で、松山ケンイチがオリンピックを人質にとり国家と対決する背景には、発展から取り残されたような秋田の田舎からオリンピック開催に沸く東京へ出稼労働に出ていた兄が、一日16時間の過酷な労働に耐える為に粗悪なヒロポンに手を出して死んでしまったことがあります。物語の詳細は省きますが、ここで登場する飯場では多くの労働者がヒロポンを日常的に打っているように描かれており、ラリってはいてもジャンキー氏の云うことに全く根拠がない訳ではないのかと、20年以上立ってから思ったわけです。まあ、あくまでドラマですから、どこまで当時の状況を正確に反映しているかはわかりませんが……。

 

大東亜戦争の時に、飲まず食わずの兵士達を支えた、というか死ぬまで戦わせたのもヒロポンである、と云う人もいます。高度経済成長の影にピロポン中毒の労働者がいたかもしれません。光り輝く地上の繁栄の下に、そのような人々の屍が累々と横たわっているのかもしれません。どなたか、日本の近現代史の中でヒロポン(=覚醒剤)がどのように利用され、それがどのように社会に影響を与えて来たのかてきたのか研究する人はいないでしょうかね。

古本屋の日記 2013年12月1日