象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

園子温、「希望の国」を、観る。

いま、まだ、目の前にある現実として続いているあの震災、あの原発事故を、ほんとうにストレートに、真っ正面から映画化するのは非常な冒険である、と思う。下手をすれば、真面目でお堅い学生演劇の、目の前の社会問題を題材にしたぎこちなくどっちらけのお芝居になる危険性がある、そう思っていたら、冒頭、やはり、こらアカンかもしれへん、そう思うような、ベタな、展開。夏八木勳、大谷直子をもってしても、やはりこれは無理ではないかと思っていたら、園子温フィルムには欠かせない怪女優神楽坂恵が妊娠し放射能ノイローゼになるあたりから、少し、というかかなり頑張って園ワールドに引き込むも、観終わってみれば、我知らず感動してしまうシーンは多々あれども、やはり、目の前の現実を乗り越えて心振るわせる映画的な現実の力強さに欠けるのではないかと、やはりどこか、目の前の現実に配慮しなにか表現しきれなかったのではないか、そう思いながらも、大谷直子の熱演に、大谷直子の愛らしい表情に、やっぱりとても感動する。そして、まだ、だれも、日本人が経験したこの体験との距離感を明確に保てないままでいるいま、この時に、この目の前の現実を、あえて目の前にあるいまだからこそ映画化してみせる園子温の勇気に、やっぱりとても感動する。賛否はともかくとして、どうしてもっとこの映画に観客がいないのかと思いますが、どうでしょうか?

 

木のモチーフはきっとタルコフスキーのサクリファイスからのものに違いない。

古本屋の日記 2012年10月20日