象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

雨。

雨の図書館の本棚の迷宮を歩けばしっとりと濡れた書物の幾ページかではもう人のものでなくなった文字が鮮やかな緑に苔むしてなにかを語るよりももっと確かな方法でたとえば雨に喜ぶ植物の呼吸法と云った感じで知るべき事学ぶべき事を伝えてくれるまだなにか云いたげな文字たちを静かに浸食しながら。

 

わたしはあの苔むした図書館へ入るための素敵な傘を空堀通り商店街の少し暗い脇道に入ったレイン・ショップで買った。街に降る雨よりもさらに細かな霧状の雨が降り続けるあの本棚の密林からくるくると蔦のようにのびた螺旋の階段を登ってまた地上に出るために。

 

 

「呼吸のような言葉のような静かなざわめきを聞きながらくるくると螺旋階段を登ってゆくとやがて小さな扉の前に行きついて、さて、その扉を開いて外に出てみるとそこはやっぱり雨の空堀通り商店街の、そう、東の一番端っこ、厚生書店のちょっと先、で、もうここから先はアーケードがなくなるから、傘を差さなきゃならない。ここから、あっち、雨の図書館を抜けてね」

ーレイン・ショップのおやじの言葉ー

古本屋の日記 2012年6月21日