ストーブをつけると、なんだか、心がはずむ。春になって、世界全体が暖かくなるより、寒さに閉ざされた中で、目の前にある、小さな温もりの方が、より、親しげなものに思えるのだ。椅子をストーブの側に置いて、なかなか読み終わらない長い長い物語を読む。いつもより余計に、その物語の世界にどっぷりと浸かることが出来るのは、時折目を上げて確認する窓の外の寒さ、そこから守られている安心感のせいなのだと、思う。外は厳しい寒さだけれど、わたしは、この温かな火の側で、どこまでも遠くに遊びに行くことが出来る。疲れればストーブの上でチンチンなっている薬缶のお湯で、熱いお茶を入れて休むことが出来る。うとうとしながら、冷たい風の音を忘れることが出来る……。
目覚めて一冊の分厚い書物(ストーブの側で読むのは出来るだけ分厚いのがいいのです)、今日は誰とも、人とは口を聞かない。世界は閉ざされて、お湯のたぎる音だけが聞こえる。いつのまにかまた……つまりはこの長い長い冬の不思議な物語の中で、誰かがわたしを尋ねて来るのを待っている、ということなのでしょうか?